【弁護士監修】悪質なパワハラ行為者は必ず解雇できるの?

ハラスメント事案発生! 行為者を懲戒解雇できる?

ハラスメント事案発生!
行為者を懲戒解雇できる?

 ハラスメント事案の発覚後、行為者に対して会社としてどのように対応すれば良いか、悩ましい場合も多いと思います。

 誰の目から見ても悪質なハラスメントの場合には、懲戒解雇も選択肢の一つとなってきますが、ハラスメント行為の内容以外の要素にも配慮が必要となります。

目次

懲戒解雇ができるのはどんな場合?

 労働契約法は、懲戒処分及び解雇について、以下のように定めています。

(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法

(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法

 上記の条文から、懲戒解雇が認められるためには、①客観的合理性②社会的相当性という2つの要素が必要となります(なお、懲戒権行使の前提として、あらかじめ就業規則に懲戒の種別および事由を定めておく必要があります。)。

 裁判例においても、上記①②が検討されており、例えば、職場の人間関係を毀損する自己中心的で他罰的な発想に基づく数々の言動・性向等を理由とする労働者の解雇が有効とされた東京地方裁判所平成26年12月9日判決(労働経済判例速報2236号20頁)では、以下のような要素が検討されています。

①客観的合理性について
「原告は、同僚らに対し、日常的に高圧的、攻撃的な態度を取り、トラブルを発生させていたほか、インターネットのサイトで業務と無関係なことをし続けていたのであり、そのため、被告は職務の遂行に支障を来していたところ、このような原告の言動は、容易には変わり得ないであろう性向等に起因しているものと推認できるから、原告については、『協調性を欠き、他の従業員の職務に支障をきたすとき』と、『その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき』という、本件就業規則41条3号及び7号に該当する事由が存在したことが認められる。[…]したがって、本件解雇については、『客観的に合理的な理由』があるものと認められる。」

②社会的相当性について
「被告は、自分が職種限定社員であるという主張に固執していた原告をその希望どおり与信審査部に異動させた上で、本件合意に沿って、他の従業員らとのコミュニケーション及び行状について、何度も原告との面談を実施し、注意を行い、懲戒処分たる譴責処分も行うなど、改善の機会を何度も与えたものの、原告の言動が基本的に変わることがなかったため、原告を解雇するに至ったものであるから、以上の経緯を踏まえると、本件解雇は『社会通念上相当』と認められる。」

 では、ハラスメント事案ではどのような要素を考慮すれば良いでしょうか。近時の裁判例を参考に検討してみましょう。

広島高裁令和3年9月30日判決(LLI/DB判例秘書登載)

事案の概要

 消防士であり、消防署小隊長を務めていたXが、部下への暴行、暴言、卑猥な言動及びその家族への誹謗中傷(以下、「本件パワハラ等」)を繰り返し、職場の人間関係及び秩序を乱したなどとして、長門市消防庁から受けた平成29年8月22日付で分限免職処分(以下、「本件処分」)について、同処分の基礎となった事実に誤認があり、Xは地方公務員法28条1項1号及び3号のいずれにも該当しない上、適正な手続がとられていないとして、同処分の取消しを求めた。

 Xによる本件パワハラ等は、若手職員2名が相次いで退職の意向を示すとともに、消防署内でパワハラが行われていることを告発したことを受けて実施された聞き取り調査をきっかけに発覚したものであり、以下のような行為を含むものだった。

ア Iが注意しても眉毛を剃ることを止めなかったため、手の甲で同人の頬を叩き、口から出血させた。

イ 筋トレ中のHに対し、「ヘディングしろ」などと言って、手に持っていたバーベル用の重り(重さ約2.3キログラム)を放り投げ、同人に頭で受け止めさせた。

ウ 筋トレ中のHがベンチプレスのバーベルを持ち上げた際、バーベルラックの上部に手を置き、同人がバーベルを下ろせない状態にして、股間を同人の頬に擦り付けた。

エ Lに対し、携帯電話を見せるように言い、同人のLINEメッセージ等を閲覧した上、その内容を自己の携帯電話の写真機能で撮影し、「お前の弱みを握った。」などと言った。

 Xから受けた本件パワハラ等を理由に退職を決断した職員や適応障害と診断された職員もいたほか、消防署全職員から集めたアンケートの結果によれば、Xが復職した場合に、退職を予定する者が2名、退職を考える者が4名、同じ小隊であれば退職を考える者が3名、一緒の小隊に属することを拒否する者が17名、復帰後の報復を懸念する者が16名いた(重複回答あり)。

 また、上記イの行為については、Xは暴行罪により、平成30年1月4日、罰金20万円の略式命令を受けた。

 他方で、Xが所属する消防組織においては、男性職員の数が圧倒的に多く、24時間勤務の3交代制により職員が起居を共にすることなどから、公私にわたって職員間に濃密な人間関係が形成され、酒席で裸になったり、悪ふざけとして裸の写真や男子トイレ内の写真を撮り合ったり、トレーニングの成果を確かめるために筋肉をたたき合ったりするような振る舞いを許容する、ある意味開放的な雰囲気が従前から醸成されていたほか、絶えず生命身体の危険や危機と向き合うという職務柄、自ずと上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、職務を離れた場面でもそうした厳しい上下関係が意識するとしないとにかかわらず持続される中で、上司から部下に対する粗暴ないし無遠慮な言動を助長ないし黙認する風潮もあった。

 さらに、Xに対してパワハラ防止に関する研修等の機会が付与された形跡はなく、Xに本件処分以前に処分歴はなかった。

原審の判断、及び控訴理由

 原審は、Xのパワハラ行為は、「いずれも原告の消防吏員としての独善的な正義感や、身勝手な好奇心に基づく、幼稚かつ軽率なものというほかない上に、プライバシー侵害によって得た情報を元に被害職員への支配的立場を確立せんとするものまで含まれており、原告の若手職員の人権を軽視する性格傾向もうかがわれる。そして、[…]Xから受けたパワハラを理由に現に退職を決断した職員もいたことからすれば、行為の程度も相当悪質であったといわざるを得ない」としつつも、以下の各点を指摘して、本件パワハラ等は、単にX個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等にのみ基因して継続されたものとはいい難く、原告に免職を相当とするほどの適格性の欠如があるとまでは認められないものとした。

ア Xの一連のパワハラ行為が所属する消防組織の“開放的な雰囲気”や“上司から部下に対する粗暴ないし無遠慮な言動を助長ないし黙認する風潮”を背景として継続されたものであること。

イ Xにパワハラ防止に関する研修等の機会を付与した形跡が見当たらないこと。

ウ 一部の職員からの申し出を契機として、Xによるパワハラ事例の集積が短期間で進められたこと、Xはこれまで上司による指導には素直に従ってきたところ、本件処分に至るまで、パワハラ行為等を含め非違行為によって指導又は処分されたことはないことが認められ、Xには本件処分に至るまで、自己の行為の非違性について省察し、それを改める機会がなかったともいえ、仮にそうした機会が一度でもあれば、Xの部下への振る舞いが改善された可能性が十分に認められること。

 原審判決に対してYは、(ⅰ)本件パワハラ等は、地位を利用した部下へのいじめであり、親密さや冗談、悪ふざけとは異質なもので、相手の気持ちや人格を無視し、心に傷を残すものである、(ⅱ)Xに処分歴がない理由は、パワハラ行為が密室で行われたために露見しなかっただけである、(ⅲ)Xへの研修が行われていなかったのは、パワハラ行為が乗しやYに露見しておらず、研修の必要性が把握されなかったことによる等の理由で、Xによるパワハラ行為は悪質であり、このままではYの消防組織が崩壊し、市民の生命や財産を守れないために本件処分がなされたのであるから、本件処分は相当である旨主張した。

本件裁判所の判断

 本件裁判所も、原審同様、Xのパワハラ行為は「冗談や悪ふざけの域をはるかに超えた悪質なものであり、Xがそのうちの一部の行為について刑事処分を受けていることも併せ考えると、Xの消防吏員としての適格性(能力、資質、性格)には問題があるといわざるを得ないから、Xが相応の思い分限処分を受けるのは避けられないというべき」としつつも、「Xは、一応は反省の情を示し、上司からの指導に従っているし、Xのパワハラ行為が露見していたか否かにかかわらず、Yにおいては、パワハラ行為等の防止のために、その職員に対し、研修等を実施すべきことは今日の社会的要請であるのに、Xにパワハラ行為の防止の動機付けをさせるような教育指導や研修等を、Yが具体的に行った事実はうかがわれない。さらに、本件処分を行うに当たりXの改善可能性の有無、程度が十分に考慮されたか疑問なしとしない」、「アンケート調査の結果によっても、X以外の者によるパワハラ行為が行われたのではないかと疑われるものも見受けられるところ、それに対する相応の処分がされたのかも、パワハラ行為の防止に向けた指導、教育が職場内でされたのかも明らかでなく、Xに対して更生の機会を与えることなく、分限処分のうち最も重い分限免職の措置をとることが相当であったのか、X以外の者によるパワハラ行為と処分の均衡が図れているのかについても疑問なしとしない」として、本件処分は重きに失するものであり、本件処分の取消しの訴えを認容した原判決は相当と判断した。

検討

 本件判決は、懲戒処分ではなく、公務員の分限免職処分が争われた事案であるため、解雇の①客観的合理性と、②社会的相当性という2要素が直接争われたものではないものの、本件判決がその判断の前提とした各要素は、パワハラ行為による解雇に対する裁判所の姿勢をうかがう上で有用です。

 本件においては、被害者が筋トレをしている最中に、「ヘディングしろ」などと言って、手に持っていたバーベル用の重りを放り投げ、同人にこれを頭で受け止めさせるといった危険な行為が行われ、Xは同行為について刑事罰も受けていることから、Xによって悪質なパワハラ行為が行われたものといえ、仮に懲戒解雇が問題とされる事案であった場合であっても、①客観的合理性は認められるものと思われます。

 これに対して、裁判例が指摘したXの職場の特殊性や、Xに対する従前の指導・教育・処分の不存在、同所における他のハラスメント事案との均衡を考えれば、上記のような悪質な行為態様にかかわらず、②社会的相当性については、認められない可能性があるものと思われます。

まとめ

 本判決は、企業がハラスメントのない職場を維持するためには、定期的なハラスメント研修の実施や、違反者に対する適正な指導・処分実施等、日頃のメンテナンスが重要であることを示すものであるとともに、実際にハラスメント事案が発生した際には、これらの要素についても適切に配慮した上で対応する必要があることが示されています。

執筆者:株式会社リーガルライト 祐川 葉  

ハラスメント対応なら
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監修者

弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
2015年の弁護士登録後、都内の弁護士事務所に勤務し、2021年に祐川法律事務所を開所。
企業法務・労務を中心に各種事案に幅広く対応。

監修者

弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
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