【弁護士監修】部下への厳しい指導はパワハラになる?

部下への厳しい指示・指導、大丈夫ですか?

部下への厳しい指示・指導、
大丈夫ですか?

 部下に対する指示・指導を、厳しくしすぎた経験はありませんか?自分では部下に対する指導のつもりでも、発言内容や発言した状況によってはパワーハラスメント(以下「パワハラ」)に該当する可能性があるため、注意が必要です。

目次

ハラスメント?それとも業務の範囲内?

 職場におけるパワハラとは

①職場において行われる、②優越的な関係を背景とした言動であって、③業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、④労働者の就業環境が害されるものであり、①から④までの4つの要素を全て満たす言動

を指し、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しません。

 そして、パワハラに該当する代表的な言動の類型と、それぞれの類型に該当する例、及びしないと考えられる例として、厚労省は以下のような表を作成して説明をしています。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(4頁)

 しかし、上記の表があっても、実際に行われた指導がパワハラに該当するのかしないのかを判断するのは簡単ではないですよね。

 弁護士や裁判官といった法律家にとってもその判断は難しく、裁判例の中にも、一審と控訴審とで判断が分かれる事案もあります。 具体的な例を確認してみましょう。

東京高裁令和3年6月16日判決(労働判例1260号5頁)

事案の概要

 Xは、路線バスの運転手として、被告Y1株式会社に勤務していたが、勤務中、バスの乗客に対し、以下のとおり発言した。

ア 乗客である男子学生に対し、「おめぇ、次、ぜったいやんなよ。頭出してたろ。ふざけてて。次、殺すぞマジで。」と発言した。

イ 乗客である女子高生が降車に際して料金箱に回数券を投入した際、当該女子高生に対し、「君、あれー、回数券さ、折りたたんじゃいけないって知らない。知らなかった。じゃあ気を付けようか。じゃあ、担任の先生の名前と学年主任の名前とクラスと番号、教えて。」と女子高生を泥棒扱いするような発言をした。

 Xの上司である被告Y2は、特に上記アの発言について、「その辺のチンピラがやることだよ。チンピラいらねえんだよ、うちは。雑魚はいらねえんだよ。」とXを強く叱責し(以下、「本件発言」)、Xが「反省している、辞めたくない」等と繰り返し述べたにもかかわらず、執拗に退職勧奨を行った。

 また、Xは、上司であるY3らから運転業務への復帰を禁じられ、約1か月以上に亘り、運転士服務心得を読んで紙に書き写すことや、反省文を作成して提出すること、小説を読んで感想文を書くことを指示された(以下「本件指示」)。 Xは、本件発言は人格否定であり、本件指示は過小な要求であるため、それぞれパワハラに該当し、違法である旨主張した。

原審(宇都宮地裁令和2年10月21日判決)の判断、及び控訴理由

 原審は、本件発言について、「上司であるY2がX自身を『チンピラ』『雑魚』と呼称した部分については、行動に対する指導との関連性が希薄で、発言内容そのものが原告を侮辱するものであり、[…]発言の態様や、その後Xが傷病休暇を取得してうつ状態と診断されたこと等も併せて考慮すれば、社会通念上許容される業務上の指導を超えて、過重な心理的負担を与えたといえるから、違法なものとして不法行為に当たる」とした。

 また、原審は、本件指示については、「同種の読書と文書の作成を約1か月以上にわたり繰り返し指示し、Xは、作業のない時間は何もせずに着座する状態であった上、Y4は、Xが反省の弁を述べてもこれでは足りないと言い、現状では乗車は不可能であると言い続けたのであって、いわゆる過小な要求を繰り返したと評価することができること[…]、これにより、Xが自主退職を迫られたと感じたと認められること[…]から、これらの事情及び前記(1)の事情を総合すれば、Y3、Y6及びY4の指示指導は、社会通念上許容される業務上の指導を越えた、過重な心理的負担を与える違法なものとして、不法行為に当たる」とした。 これに対して、Yらは、本件発言は指導との関連性が希薄ではなく、本件指示はXがYらによる指示指導に対し、苦情事案に対する反省も数行程度のものしか提出せず、質問に対しても無反応であるなど、消極的、反抗的な態度をとり続けたため、指導が繰り返されたものであり、業務上、必要かつ相当なものであると主張し、Y敗訴部分の取り消しを求めて控訴した。

本件裁判所の判断

 まず、本件発言については、「侮辱的表現が、労働者の職責、上司と労働者との関係、労働者の指導の必要性、指導の行われた際の具体的状況、当該指導における発言の内容・態様、頻度等に照らし、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超え、労働者に過重な心理的負担を与えたといえる場合には、当該指導は違法なものとして不法行為に当たる」との一般論を示した上で、「Xには、数回にわたり、運転士としての適格性に疑念を生ぜしめるような問題行為があったこと、Xは、当該行為により苦情案件を惹起させたことに対する受け止めや上司の事情聴取に対する対応にも真摯さを欠き、これを放置すれば、同種の苦情案件を引き起こすなど顧客対応上の更なる問題行動が懸念されたことは、前記認定・説示のとおりであり、Xに対する指導の必要性が極めて高かったことが認められるから、Y2らの叱責等の発言に厳しいものがあったとしても、それをもって直ちに、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えたことにはならないものというべきである」。「『チンピラ』との発言は、Y2が、男子高校生の件に言及する中で、『殺すぞ』といった発言をしたり本件男子高校生の在籍する高校を見下したりするのはチンピラであり、Y1にチンピラないしそれと同視できる雑魚は不要であるとの趣旨で発言したものであり、業務上の指導と無関係にXの人格を否定するものとはいえないから、社会通念上許容される範囲を逸脱した違法なものということはできない」と判断した。

 次に、本件指示については、「使用者が労働者に対してした業務上の指示・指導が、業務上の必要性・相当性を欠くなど、社会通念上許容される業務上の指示・指導の範囲を超えたものであり、これにより労働者に過重な心理的負担を与えたといえる場合には、当該指示・指導は違法なものとして不法行為に当たると解するのが相当である」との一般論を示した上で、本件指示のような行為も「教育指導の目的の範囲から逸脱するものであるとはいえない。」とし、「同様の作業を複数回繰り返させたことについても、前記補正の上引用した認定事実によれば、Xは、教育カリキュラム実施中のXの目付きその他の態度が良くないなどとして、改善意欲が十分でないと判断されていたこと[…]や、Xの記載した反省文の内容等が比較的簡単なものにとどまっており[…]、内省の深まりに疑念を生ぜしめるものであったことは否定できないことからすれば、必要性を欠くものであったとも認め難い」として、本件指示は過小要求には該当せず、不法行為を構成するものとは認め難いとしました。 (なお、本件判決は、本件発言、及び本件指示以外に、退職強要発言があったことを認め、22万円の賠償請求権を認めました。)

考察

 本裁判例は、パワハラの代表的な言動の類型のうち、①精神的な攻撃、及び②過小な要求について、一般的な判断基準を示した上で、不法行為該当性を検討したものです。

 本件発言については、原審は「チンピラ」「雑魚」という、業務と一見して関連性がないと思われるような侮辱的な発言を違法としましたが、本裁判例は、Xの問題行動の内容・頻度や、上司からの指導に対する対応状況を踏まえ、Xに対する指導の必要性が高かったことを踏まえ、「業務上の指導と無関係にXの人格を否定するものとはいえない」として違法性を否定しました。

 また、本件指導についても、原審が指示内容を中心に捉えて違法な過小要求としたことに対し、本裁判例は、Xの改善意欲やXから提出された反省文の内容等を踏まえたXの内省の程度を詳細に認定し、「必要性を欠くものであったとも認め難い」として違法性を否定しました。

まとめ

 裁判例では、パワハラ該当性を、パワハラか否かを問われている発言や指示の内容だけでなく、当該発言や指示がされるに至った経緯や、これに対する対応状況等の周辺事情を細かく認定した上で判断しています。
 企業の内部でパワハラ該当性を検討する際にも、これらの事情にも配慮した上で検討を行うことが必要ですね!

執筆者:株式会社リーガルライト 祐川 葉  

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監修者

弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
2015年の弁護士登録後、都内の弁護士事務所に勤務し、2021年に祐川法律事務所を開所。
企業法務・労務を中心に各種事案に幅広く対応。

監修者

弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
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