【弁護士監修】ハラスメントのヒアリング担当者はどんな事項を聴取する?

ハラスメントのヒアリング担当者はどんな事項を聴取する?

ハラスメントのヒアリング担当者は
どんな事項を聴取する?

 職場でハラスメント相談がなされた場合、企業は、相談者や行為者等の関係者へのヒアリングが義務付けられています。ヒアリングを実施するに当たっては、どのようなことを聴取すれば良いのでしょうか?

目次

ヒアリングにおける聴取事項

 事業者は、職場におけるハラスメントに関する相談を受けた場合、「職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応」が法律で義務付けられています。

職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

①事実関係を迅速かつ正確に確認すること

②ハラスメントがあった事実が確認できた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと

③ハラスメントがあった事実が確認できた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと

④再発防止に向けた措置を講ずること

 企業が従業員から職場におけるハラスメントに関する相談を受けた場合には、まず、①相談を受けた事案に関する事実関係を迅速かつ正確に確認することが必要です。さらに、確認した事実関係の中にハラスメントに該当すると認められるものが存在した場合には、②被害者に対する配慮の措置や、③行為者に対する懲戒処分等の措置を行う必要があり、ハラスメントに該当する事実の存否にかかわらず、④再発防止策を講じることとなります。

 そこで、聴取においては、①の事実関係の確認のみならず、上記の②から④の措置の実施に必要な事項は何かを考えて、必要な情報を逆算的に収集する必要があります。

 上記をふまえ、ヒアリングにおいては、次の、事実に関する各関係者の主張を聴取する必要があります。

(1) 事実関係

(2) ハラスメント該当性に関連する事実

(3) 被害者に対する配慮に必要な事実

(4) 行為者に対する措置の実施に必要な事実

(5) 再発防止に向けた事実

(1) 事実関係

 上記①「事実関係を迅速かつ正確に確認すること」のとおり、相談を受けた事案に関する事実関係を聴取する必要があります。

 この「事実関係」はハラスメント該当性にこだわらず、相談者の話す事案の内容を広く聞き取る必要があります。

 なお、行為者や第三者への聴取を始める前に、これらの者に相談者から聴取した事項を伝えていいか許可を取る必要がある点に注意が必要です。

(2) ハラスメント該当性に関連する事実

 ハラスメント該当性に関する事実の調査は、ヒアリングの一番の目的であり、その後の措置の要否や内容の判断にも必要となる最も重要な事項と言えます。

 ハラスメント該当性を検討する上では、法律や厚生労働大臣が定める指針、判例・裁判例を参照する必要があります。このうち最も重要であり、第一に参照すべきものは法律です。

 ヒアリングにおいては、法律により定められたすべての要件について当てはめることが可能となるような事実の有無・内容を正確に聴取し、その後のハラスメント該当性判断の基礎となりうる資料を作成することが求められます。

 職場におけるハラスメントを定める法律

パワハラ:労働施策総合推進法30条の2第1項

セクハラ:男女雇用機会均等法第11条

マタハラ:男女雇用機会均等法11条の3、及び育児・介護休業法25条

 ハラスメントに関する法律の文言には抽象的な部分もあるため、ハラスメントの類型ごとに策定された以下の厚労大臣指針を参照しつつ、具体的にどのような言葉や態度がハラスメントに該当するかを知っておくことも必要となります。

パワハラ:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
参照 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf

セクハラ:事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
参照 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf

マタハラ:①事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針、②子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針
参照 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605635.pdf

 さらに、これらの記載のみでは判断し難い微妙なケースについては、類似する判例・裁判例との対比により判断を行う必要がある場合もあります。

 以下のURLは厚生労働省が作成しているハラスメント対策を目的としたポータルサイト「あかるい職場応援団」の「裁判例を見てみよう」というコーナーです。

 ヒアリング担当者となった方が事前にすべての裁判例を読み込んでおく必要まではありませんが、同コーナーでは、パワハラとセクハラに関する裁判例を事案の特徴ごとに検索して表示できるので、具体的な案件の担当が決まった後に、同案件に似た裁判例がないかを試しに検索してみてください。類似の裁判例が存在した場合には、その裁判例の裁判所が取り上げている個別の事実は、相談を受けた事例においても聴取をする必要性が高い事実と言えます。

裁判例検索
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/
参照 厚生労働省「あかるい職場応援団」/「裁判例を見てみよう」

 職場におけるハラスメントの代表例である、パワハラ、セクハラ、マタハラの各該当性については、以下の記事もご参照ください。

 なお、ハラスメント事案については、マタハラとパワハラが重なり合って発生している事案など、類型の異なるハラスメントが複合的に発生する場合もあります。そのため、聴取事項についても、相談者から申し出のあったハラスメントの類型のみならず、他類型のハラスメントの要件についても判断が可能となるように聴取を行う必要があります。

 また、ハラスメントに該当するだけでなく、刑法(強制わいせつ罪、強制性交等罪、準強制わいせつ罪、準強制性交等罪、傷害罪、暴行罪、脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪等)、都道府県が定める迷惑防止条例(つきまとい、盗撮等)や、各種労働法規に違反する違法行為である場合もあるため、関連法令に抵触する疑いがある場合には、それらの法令が定める要件に該当するか否かについても聴取を行う必要があります。

(3) 被害者に対する配慮に必要な事実

 ヒアリングによってハラスメントが生じた事実が確認された場合には、企業は速やかに、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助や、当事者の配置転換、行為者から被害者に対する謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復等の被害者に対する配慮の措置を適正に行うことが求められます。

 そのため、当該措置の前提として、ヒアリングの段階から、被害者の健康状態、配置転換や行為者からの謝罪の要否、労働条件上の不利益の有無やその内容等についても、聴取する必要があります。

(4) 行為者に対する措置の実施に必要な事実

 ヒアリングによってハラスメントが生じた事実が確認された場合には、企業は、行為者に対する措置を適正に行うことが求められます。

 そのため、当該措置の前提として、ヒアリングの段階から、懲戒規定等の行為者の処分に関する規定への該当性判断に必要な事実、処分内容の選定に必要な事実、又は配置転換等その他の措置に関する意見等についても聴取を行う必要があります。

(5) 再発防止に向けた事実

 前記のとおり、ハラスメント関連法令は、企業に対して、ハラスメント発生後の事実確認のほか、再発防止に向けた事後の取組みを義務付けています。また、企業がハラスメントの原因を放置すれば、その後にハラスメントの被害を受けた従業員に対して、安全配慮義務違反や不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性もあります。

 そのため、ヒアリングにおいては、ハラスメント事案の再発防止に向けて、ハラスメントが発生した原因に踏み込んだ質問を行う必要があります。

 ハラスメントの発生原因には、その事案に特有な原因と、その組織に共通する原因があり、それぞれの原因を漏れなく聴取することが必要です。

 特に、後者の組織に共通する原因については、当事者が問題意識を持っておらず、単に話を聞いているだけでは聞き漏らす可能性があり、注意が必要です。

その事案に特有な原因

 行為者と被害者との間の人間関係やハラスメントが発生した経緯など、その事案に特有なハラスメント発生原因については、当該事案の解明に加えて、同様の事案の再発を防止するためにも聴取する必要があります。

組織的な原因

 上記の「その事案に特有な原因」に加え、同様のハラスメントが社内で発生することを防止するため、当該ハラスメントに組織的な原因がないかを確認する必要があります。組織的な原因の例としては、ハラスメントの廃絶に関するトップの意思が従業員に浸透していないことや、従業員に対して適切なハラスメント教育が行われていないこと、新入社員への指導の仕方や上司への報告の仕方等の従業員同士のコミュニケーション方法に関する教育が行われていないことなど様々です。

  これらの組織的な課題についても併せて聴取を行うことで、再発防止に向けた事後の取組みを円滑に実施し、全社的なハラスメントの解消に効果的につなげることができます。

まとめ

ハラスメント相談を受けた企業は、①事実関係を迅速かつ正確に確認すること、②事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと、③事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと、④再発防止に向けた措置を講ずることが義務付けられています。

ヒアリング調査の目的から考えると、同調査において聴取すべき事実は、(1)事実関係、(2)ハラスメント該当性に関連する事実、(3)被害者に対する配慮に必要な事実、(4)行為者に対する措置の実施に必要な事実、(5)再発防止に向けた事実であると言えます。

(1)事実関係を聴取する必要があります。この「事実関係」はハラスメント該当性にこだわらず、相談者の話す事案の内容を広く聞き取る必要があります。

(2)ハラスメント該当性に関連する事実については、法律、厚労大臣指針、判例・裁判例等を参照し、必要な事実を検討します。

(3)被害者に対する配慮に必要な事実については、被害者の健康状態、配置転換や行為者からの謝罪の要否、労働条件上の不利益の有無やその内容等について聴取します。

(4)行為者に対する措置の実施に必要な事実については、懲戒規定等の行為者の処分に関する規定への該当性判断に必要な事実、処分内容の選定に必要な事実、又は配置転換等その他の措置に関する意見等を聴取します。

(5)再発防止に向けた事項については、行為者と被害者との間の人間関係やハラスメントが発生した経緯など当該事案に固有な原因だけでなく、新入社員の教育方法や管理職の指導方法の在り方等の組織的な課題の有無・内容を聴取します。

執筆者:株式会社リーガルライト 祐川 葉  

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監修者

弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
2015年の弁護士登録後、都内の弁護士事務所に勤務し、2021年に祐川法律事務所を開所。
企業法務・労務を中心に各種事案に幅広く対応。

監修者

弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
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