【弁護士監修】ハラスメント外部相談窓口の選び方
ハラスメント外部相談窓口の選び方
ハラスメント外部相談窓口の選び方
ハラスメント相談窓口は取り扱える業種や資格が限定されていないため、様々な業種の事業者が外部相談窓口業務を受託しており、それぞれ提供するサービスの内容にも違いがあります。
それでは、どのような基準でハラスメント外部相談窓口を選ぶのが良いでしょうか?
法令上のハラスメント相談窓口の役割
ハラスメントの相談窓口の業務の柱は、ハラスメントが疑われる相談(苦情を含みます。)を広く受けて、その相談内容を正確に企業に報告することです。
法令上、企業は、ハラスメントに係る相談の申出があった場合、ヒアリングなどの事実調査を実施して、事実確認等の適切な対応を行う義務を負っています。そのため、ハラスメントが疑われる事案であったにもかかわらず、相談担当者がこれを看過した場合、企業は、事実確認や再発防止に対する義務を怠ったとして、安全配慮義務違反による債務不履行等の責任を問われ、損害賠償義務を負う可能性があります。
企業が事実確認等の対応を義務付けられているのは、相談者が「ハラスメントを受けた」と指摘した場合だけではなく、相談者がハラスメントの可能性があることを明示していなくても、その相談内容からハラスメントの発生が疑われる場合を含んでいます。
ハラスメント外部相談窓口設置受託事業者の選定基準
それでは相談窓口で受けたすべての相談について事実調査や事実確認を実施すべきかというと、そうではありません。すべての相談について事実調査や事実確認を実施することは、相談者にとっても企業にとっても大きな負担となり、気軽に相談できる窓口ではなくなってしまいます。
そのため、相談窓口担当者が、その事案が「ハラスメントが疑われる事案」であるか否かを企業が適切に判別するに足りる事実を聴取した上で、(相談者の同意を得て)聴取した事実を企業に正確に伝えることになります。
したがって、企業がハラスメント外部相談窓口受託事業者を選定する際には、①実際に相談窓口で相談を担当する者を基準に判断することになります。
また、もう一つ重要な視点があります。それは、②相談窓口が「相談したら解決できる」システムの一部として機能するかということです。
職場でのハラスメントに悩む多くの人が「相談をしても解決にならない」と相談を躊躇している現状から、相談をすれば解決につながる体制づくりが企業の課題となっています。
外部相談窓口受託事業者においては、適切な相談対応に加え、相談後の企業の対応へのアドバイスの有無や、事実調査・事実確認のファーストステップとしての正確な書面の作成、再発防止策の提案等、事案の解決に向けたサービスが提供されているのか確認することも大切です。
①-1 ハラスメント関連法令のほか、広い法律知識を有すること
職場におけるハラスメント対策は各種法令で定められたものであり、ハラスメントに関する訴訟等も、主に債務不履行や不法行為といった民法上の問題です。また、ハラスメントは労働法や刑事法などの法令とも重なり合う部分が多く、ハラスメントの相談窓口担当者には、ハラスメント関連法令のほか、広い法律知識が求められます。
そのため、外部相談窓口担当者には、弁護士、司法書士、行政書士等の法的素養のある専門家が適しているでしょう。
なお、弁護士法72条との関係で、ハラスメント該当性に関する法的判断や有料での法律相談を行うことができるのは、弁護士に限定されていますが、その基礎となる事実の聴取を行うことは、法的判断そのものではなく、これに抵触しません。
①-2「ハラスメントが疑われる事案」であるか否かを企業が判断するために必要な事項が聴取できること
ハラスメントに係る相談の申出があった場合、企業には事実調査や事実確認が義務付けられています。企業は、相談窓口で受理した相談内容を基に、ヒアリングなどの事実調査や事実確認の実施の要否を見極める必要があり、正しい判断を行うために相談窓口での初期対応は非常に重要な役割を占めています。
また、法令上の「ハラスメントに係る相談」には、「相談」の時点ではハラスメントの該当性の判断はできないことから、「ハラスメントが実際に発生したとき」だけでなく、「ハラスメントの発生が疑われるとき」も含まれています。
もし、相談窓口担当者が相談者個人のメンタルヘルスの不調に偏重し、「ハラスメントの発生が疑われるとき」であることを看過していたらどうなるでしょうか。企業は、相談窓口担当者から受けた報告内容から、ハラスメントに係る相談ではなかったと判断し、ヒアリングなどの事実調査や事実確認が行われないかもしれません。その後、相談者がやはり納得できないと翻意して、訴訟等に発展することになれば、企業はハラスメントの事実を知り得たにもかかわらず、事実確認をせずに事態を傍観していたとのそしりを免れません。
そして、この場合、企業は、事実調査や事実確認義務を怠ったとして、債務不履行責任や不法行為責任を問われ、損害賠償義務を負う可能性もあります。
このような事態を防ぐためにも、相談窓口担当者が「ハラスメントの発生が疑われるとき」であることを感知し、「ハラスメントが疑われる事案」であるか否か、企業が判断するに足りる客観的な事実を、相談者から聴取できることが必要です。
①-3 相談内容を歪めず、正確に企業に伝えられることができること
相談窓口担当者は、聴取した相談内容を正確に企業に伝える必要があります。聴取そのものと書面化は同じもののように感じられるかもしれませんが、誰が見ても一つの意味でしか捉えられないような一義的な文章とする技術等、聴取した事実の書面化には独特な技術が必要になります。
また、窓口への相談は、相談者がハラスメントに関して企業に行う最初のアクションである場合が多く、この点でも非常に重要です。
裁判における事実認定の際には、当事者が事件の当初にどのような話をしていたかが重視される傾向があります。これは、事件の当初の予断のない状態で当事者がした話は、真実である可能性が高いという経験則に基づくもので、その後、同じ人が違う話をするようになった場合には、なぜ話が変わったのか合理的な説明が求められることとなります。
そのため、相談窓口に話があった時点で、適切な事実を聴取し、正確な記録を残しておくことには、重要な意味があります。
以上の観点から、相談窓口担当者は、法的知識や聴取技術のみならず、聴取した内容の書面化・記録化に長けている必要があります。
②「相談したら解決できる」相談窓口であること
ハラスメント相談窓口には、内部のみ設置、外部のみ設置、両方設置の3パータンがあります。そして、ハラスメントの外部相談窓口をメンタルヘルスの相談窓口やコンプライアンス通報窓口と併合して設置するケースや、ハラスメント通報窓口のみを単独で設置するケース、ハラスメントの種類別に窓口を分けて設置するケースなどがあります。
いずれにも共通することは、実際に相談がこなければ意味がないという点です。
下のグラフは、厚生労働省が実施したアンケート中、「ハラスメント行為を受けた後の行動」についての回答をまとめたものです。
このグラフから、ハラスメントを相談したのは、社内の同僚や上司、家族や社外の友人の割合が多くなっています。一方で、その他の相談先への相談割合は低く、相談窓口が実際に機能していないことが分かります。
そして最も注目すべきは、「何もしなかった」との回答が多いことです。
この点に注意して、続けてパワハラとセクハラについて「何もしなかった理由」のアンケート結果を見てみましょう。
このアンケート結果では、パワハラやセクハラを受けても「何をしても解決にならない」と考えた人が約60%にも上ることが分かります。「職務上不利益が生じると思ったから」「相談しにくい雰囲気があった」などの回答には、相談窓口や相談窓口担当者に対する信頼の低さが現れています。
これらの2つのアンケート結果から、ハラスメントを受けても、「何をしても解決にならない」と思い、相談も何もしていないケースが最も多いことが分かります。
企業がハラスメントの発生を把握しているのは、同僚や上司に相談がなされ、さらにそれがハラスメント相談窓口等に報告された場合のみであり、これは社内で発生しているハラスメントの氷山の一角に過ぎません。アンケート結果から、実際には、職場で数多くのハラスメントが発生していることが分かります。
相談が来ない窓口から、相談が来る窓口とするために必要なことは何でしょうか。
相談者が窓口に求めていることは、「相談をしたら解決ができる」システムであることです。
「相談したら解決ができる」システムを構築するためには、相談窓口担当者において適正な対応がなされていることに加え、公平な事実確認や適正な事後対応、再発防止につなげられる仕組みが必要です。
具体的には、企業が外部相談窓口受託事業者から相談の報告を受けた後、その事業者から、事実確認の必要性の判断や対応へのアドバイスが得られるのか、相談内容の報告書は事実調査や事実確認を見据えた詳細な内容か、ハラスメントではないと考えられる場合でも適正な対応や再発防止に向けた提案はあるのかなど、事案の解決に向けたサービスが提供されているか確認しましょう。
まとめ
企業は、「ハラスメントに係る相談の申出があった場合」に、ヒアリングによる事実調査や事実確認を行う義務を負います。
「ハラスメントに係る相談」とは、明らかにハラスメントが発生した場合だけではなく、「ハラスメントの発生が疑われる場合」を含みます。
外部相談窓口受託事業者を選定する際には、①相談窓口担当者の能力と、②「相談したら解決できる」相談窓口であるか否かを基準にすると良いでしょう。
①相談窓口担当者の能力については、①-1ハラスメント関連法令のほか、広い法律知識を有すること、①-2「ハラスメントが疑われる事案」であるか否かを企業が判断するために必要な事項が聴取できること、①-3相談内容を歪めず、正確に企業に伝えられることが必要です。
②「相談したら解決できる」相談窓口であるとは、相談窓口担当者において適正な相談対応がなされることに加え、事実確認や事後対応、再発防止につなげられる相談後のサービスが提供されているかで判断します。具体的には、事実確認の必要性の判断や対応へのアドバイスの有無、事実確認等を見据えた正確な相談結果報告書の可否、ハラスメントではないと考えられる場合の適正な対応の提示や再発防止策の策定の有無等を考慮すると良いでしょう。
執筆者:株式会社リーガルライト 祐川 葉
ハラスメント対応なら
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弁護士 祐川 友磨
慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
2015年の弁護士登録後、都内の弁護士事務所に勤務し、2021年に祐川法律事務所を開所。
企業法務・労務を中心に各種事案に幅広く対応。
弁護士 祐川 友磨
慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
2015年の弁護士登録後、都内の弁護士事務所に勤務し、2021年に祐川法律事務所を開所。
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