【弁護士監修】経営者必見!ジャニーズ会見に学ぶ「組織のコンプライアンスの在り方」

ジャニーズ会見に学ぶ「組織のコンプライアンスの在り方」

ジャニーズ会見に学ぶ
「組織のコンプライアンスの在り方」

 ジャニーズ事務所の一件が、連日メディアを賑わせています。令和5年9月7日実施の記者会見の場でも、同事務所の東山紀之氏から「絶対的な存在がいたから風通しが悪かった」、ジャニーズアイランドの井ノ原快彦氏からも「権力を持ちすぎないように気を付けている」の発言が相次ぎ、企業のコンプライアンスに関するガバナンスの在り方が問題視されています。
 今回は、ジャニーズ事務所の事案を通して、組織のコンプライアンスの在り方について考えていきましょう。

目次

代表取締役が権力を持つのは悪いことなのか?

 ジャニーズ事務所では、ジャニー氏の性加害が問題となった後の2023年5月14日、「故ジャニー喜多川による性加害問題について当社の見解と対応」と題する動画をホームページ上で公開し、その中で、ジャニー氏の姪であるジュリー氏が、ジャニー氏と、ジャニー氏の姉でありジュリー氏の母でもあるメリー氏との関係について、以下のように述べています。

タレントのプロデュースをジャニー喜多川、会社運営の全権をメリー喜多川が担い、この二人だけであらゆることを決定していました。情けないことに、この二人以外は私を含め、任された役割以外の会社管理・運営に対する発言は、できない状況でした。また管轄外の現場で起きたことや、それに対してどのような指示が行われていたのか等も、そもそも全社で共有されることはなく、取締役会と呼べるようなものも開かれたことはありませんでした。本件を含め、会社運営に関わるような重要な情報は、二人以外には知ることの出来ない状態が恒常化していました。・・・ただ、1962年の創業時からずっとこの体制で成長してきたこともあり、ジャニーとメリーの二人体制=ジャニーズ事務所であることを、所属する全員が当然のこととして受け入れてしまっていたように思います

引用元:株式会社ジャニーズ事務所ホームページ上の動画「故ジャニー喜多川による性加害問題について当社の見解と対応」

 また、「外部専門家による再発防止特別チーム」による調査報告書(公表版)(以下「調査報告書」)にも、

  • 「創業者であったジャニー氏とメリー氏がそれぞれ役割分担をしながらも、極めて強い結びつきと権限を持って、ジャニーズ事務所の運営全般を担っていた」(13頁)
  • 「絶大な権力を掌握して経営全般を担う典型的な同族経営企業であった」(14頁)
  • 「ジャニーズJr.から見れば、自分がタレントとしてデビューして人気を博することができるかどうかを決める生殺与奪の権を握る絶対的な権限を有する立場にあった」(16頁)

など、再三、ジャニー氏が絶対的な存在であったことが記されています。

 先日の会見でも、事務所側から、ジャニー氏とメリー氏が会社の全権を握っており「絶対的な存在」として会社に君臨していたことから社内の風通しが悪く本件の発生を止められなかったということが繰り返し述べられ、同事務所の東山紀之氏は、「権力をもつことは怖いことだと思っている。チーフコンプライアンスオフィサーを、見張ってくれる人をつける」と発言していました。

 また、井ノ原快彦氏も、自身が代表を務めるジャニーズアイランドの運営について、「権力を持ちすぎないように気を付けている」、「自分や部下が権力を持たない仕組みが大事だと常日頃から考えている。オーディションも1人で決めず、周りの意見も聞くようにしている」と発言していました。

 たしかに、権力をもつことは、常にそれを濫用する誘惑に抗わなければならず、怖いことであるとの自覚を持つことは素晴らしいことだと思います。

 しかし、経営者が「権力をもつこと」は悪なのでしょうか?

 本当に、井ノ原氏の言うように、「自分や部下が権力を持たない仕組みが大事」で、「オーディションも1人で決めず、周りの意見も聞く」ことまで必要となるのでしょうか?

権力の集約と企業の成長

 現代のグローバル社会においては、経営者のカリスマ性や手腕はこれまで以上に求められるようになっており、均一化された企業が生き残ることは難しくなっています。
 そのため、企業の成長を考えるときに、ただ単に「絶対的な存在」であるというだけで否定してしまっては、リーダーシップを求められる世界で戦うことはできません。

 世界に目を向けて見ると、韓国発の人気アイドルグループのTWICEやNiziUなどを排出したプロデューサーJ.Y.Park氏は、厳しい指導風景やアーティストの選考状況をテレビ番組で公開しており、自らが運営する芸能事務所であるJYPにおいて絶対的な存在であるにもかかわらず、カリスマ指導者としてその手腕が評価されています。

 企業が急速に成長していくためには、経営センスに溢れ、カリスマ性のある経営者がその権力を遺憾なく発揮して、企業全体を牽引していく必要があり、そのために経営者が「絶対的な存在」とならざるを得ない側面があります。

 では、JYPとジャニーズ事務所との違いは、どこにあるのでしょうか。

 トップの経営理念と、ガバナンスの観点から考えていきましょう。

トップの経営理念とガバナンス

トップの経営理念

 トップの経営理念という観点からすると、J.Y.Park氏が運営する芸能事務所であるJYPは、アーティストの人間性を重視し、「真実」「誠実」「謙虚」を三箇条に掲げる道徳教育のほか、性教育をカリキュラムに取り入れることで知られています。 

 これに対して、ジャニーズ事務所では、約20年前からジャニー氏による性加害の事実が明らかとなっていたにも拘わらず、性加害は悪でありこれを根絶しようというメッセージが組織内で発出された形跡はなく、ハラスメントに関するセミナーも2017年に1回実施したのみで、この1回のハラスメント研修すら性加害を意識した内容にはなっていませんでした。

 同事務所の場合、経営理念にコンプライアンスに関する強い意志は感じられず、その実態もコンプライアンスとはかけ離れていたことが調査報告書で明らかにされています。

 経営者が正しい経営理念を打ち出して自らを厳しく律する姿勢を見せていれば、いかに経営者が権力を持っていたとしても、一度経営者がかかる理念から外れた行動をとれば、組織内からこれを指摘する声が上がります。

 そのため、権力を集約する場合には、コンプライアンスを重視する経営理念が不可欠となります。

 現在、ベンチャー企業が上場する場合にもコンプライアンスに関する厳しい審査が実施されており、すべての企業が、コンプライアンスに即した経営理念の解釈と周知が強く求められています。

ガバナンス

 JYPに関しては、残念ながらどのようなガバナンス体制が構築されているか詳細を把握できませんが、ジャニーズ事務所のガバナンス体制が脆弱なものであったことは今般の調査等で明らかにされています。

 例えば、調査報告書には、メリー氏やジュリー氏が性加害の事実を以前から認識していた蓋然性は高く、1960年頃に裁判で性加害の事実が争われ、1999年10月からは週刊文春によって性加害疑惑が連載された後も、同事務所はジャニー氏の性加害の事実について積極的な調査をするなどの対応はとらず、取締役会も開催しなかった旨が記載されています(28ないし32頁)。

 また、会見でも、東山氏から「メリー氏やジュリー氏といった親族でさえも、ジャニー氏に性加害について話をすることができず、ましてや親族以外の者が喜多川氏に性加害の問題を話すことができる空気にはとてもなかった」との発言がなされています。

 今回問題となった性加害の直接的な要因はジャニー氏ではありますが、ジャニー氏という絶対的な存在に対応できなかったガバナンスの不存在も極めて大きな原因です。

 ジャニーズ事務所の場合は、会見での東山氏や井ノ原氏の発言から、今後のガバナンスについては「絶対的な存在」を排除する方向に舵を切った旨を宣言したものだと思われます。

 同事務所については、すでに社会の信頼を著しく裏切っており、コンプライアンスを考慮したガバナンスをいくら見直しても「絶対的な存在」を軸としたブランディング戦略は難しいと判断し、今後は、東山氏や井ノ原氏の発言に沿う形の企業活動を行うのかもしれません。

 しかし、コンプライアンス違反を犯していない企業が、いたずらに「絶対的な存在」を恐れる必要はないように思います。

 会社経営において、「絶対的な存在」とならぬよう、社員一人一人の意見に耳を傾け、人事評価も一存ではなく周りの意見を聞き、社の方針も逐一社内の意見を勘案して決定していたのでは、会社は立ちゆきません。

 コンプライアンスに対するガバナンスの整備ができているのであれば、経営者に権力を集約し、その一存で、それまで培った経験を活かし、秀でた才能を見出し、適材適所に人材を采配することも、企業としての成長を考える上で必要ではないでしょうか。

ガバナンスと法令

 ハラスメント関連法令は、すべての事業者に対して、「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」などを義務付けており、法令は企業にハラスメントに対する積極的な対応を求めています。

 また、公益通報者保護法は、コンプライアンス違反に対する社内窓口の設置や通報者の保護を義務付け、企業の自浄作用を求めています。

 会社法は、社外取締役や、業務監査役等を設置することで、業務執行取締役の業務の執行を監督することのできる機関設計を行なうことを可能としています。

 また、労働基準法等の労働法は、企業と従業員との間の雇用関係に関する規律を定めることで、企業経営者によって不当解雇等の恣意的な行為がなされることを防止しています。

 さらに、昨今は、上場会社に対して適用されるコーポレートガバナンス・コードが改訂され、会社が、株主や顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを構築することが、社会的に要求されています。

 これらを遵守しなければ、法令に定められた罰則の適用を受けるだけでなく、それ以上に大きな社会的ペナルティを受ける可能性があります。実際に、今回のジャニーズ事務所の事案の後、多数の企業が今後は同事務所との間で広告契約を打ち切る方針を示しています。

 コンプライアンス違反は、仮に法令上の問題がなくとも、一度発生すれば同社の企業イメージを大きく損なう可能性があり、代表取締役等の経営者一点に権力を集約させる場合にはコンプライアンス面での注意が必要不可欠です。 

ガバナンスの必要性

 経営者の在り方、一点に権力を集約させることの是非を考えることは、ガバナンスを見直す上で必要な作業です。

 ジャニーズ事務所は、会見で、今後は外部の「チーフコンプライアンスオフィサー」を配置し、業務のみならず、それ以外の部分についても企業として監視を行うことで、絶対的な権力者をつくらない取組みに向けたガバナンスの整備を説明していました。

 同事務所の方針のように、コンプライアンスに特化した監視役を設置しガバナンスを整えることは、ハラスメントなどのコンプライアンス違反を予防するための大きな抑止力となります。

 他方、経営者の側から見ても、監視役の設置は決してデメリットばかりでなく、監視役が存在することにより、自身が知らぬ間にコンプライアンス違反を生じさせることを心配することなく、自らが持つ能力を遺憾なく発揮することにも繋がります。

 企業に必要なことは、絶対的な存在を無闇になくすことではなく、絶対的な存在を支え、かつ、必要に応じて抑えられる機関の設置等、社内体制を整備することです。

コンプライアンスをめぐるガバナンスの具体策

 コンプライアンスをめぐる社内体制の整備は、大きく分けて、平時の対応と有事の対応の2つに分かれます。

平時の対応

・社内通報窓口の設置(公益通報窓口、ハラスメント相談・通報窓口)

・有事の対応マニュアルの作成・公表

・社内アンケートの定期的な実施

・セミナーや研修の実施による意識改革

・社内規程の整備

・外部監視機関の設置 など

有事の対応

・事案発生時の調査(社外調査会社の利用)

・外部相談機関の設置

・社内アンケートの実施による原因調査

・予防や再発に向けた取組み

・セミナーや研修の実施による意識改革 など

 ジャニーズ事務所の場合は、これまで社内通報窓口の設置も社内アンケートの実施もなされていなかった旨が会見や調査報告書で明らかになりました。
 調査報告書によれば、先述したように、ハラスメントに関するセミナーは2017年に1回実施されたのみで、この1回のハラスメント研修すら、性加害を意識した内容にはなっていませんでした。ジュリー氏体制の下、2020年にチーフマネージャー以上を対象として外部講師を招いたハラスメント研修とアンガーマネジメント研修においても、過去、ジャニーズ事務所で性加害が行われたことを踏まえた内容や、異性間だけではなく同性間でもセクハラや性加害が行われ得ることを意識した内容にはなっていませんでした(52頁)。

 他方、労働省のハラスメントに関する調査結果を見ると「ハラスメントを受けた(疑われる場合を含む)」と感じた方のうち、パワハラでは約36%が、セクハラでは約40%もの人が「何もしなかった」と回答しています。(引用元:令和2年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」より)

 また、ハラスメントの被害に遭った、被害に遭ったのかも知れないと感じても、「被害を言葉にして話したくない」「見返りを受け取ってしまった」「被害と言えるのか分からない」などの理由から、声をどう上げていいのか悩んでいる方もいらっしゃいます。

 これらの被害を受けた方々の声を掬い上げるためには、社内体制の整備そのものに加え、整備された取組みの内容を社内に適切に周知することも必要となります。

組織のガバナンス体制の在り方

 現在の社会では、情報化社会の促進や、SDGsの進展により、企業活動においてもコンプライアンスがより重要視されるようになりました。そして、企業におけるコンプライアンスを達成するための仕組みがガバナンスです。

 車を運転するにあたって、一人の運転手がアクセルとブレーキを同時に全開にすることはできないように、企業の経営者が一人で事業を最速で推進していきながら、同時にコンプライアンスを達成することは困難です。組織におけるコンプライアンスを強化するためには、経営者がアクセルを、コンプライアンス部門がブレーキを担当し、両輪で経営を進めて行く必要があります。

  弊社では、企業のコンプライアンスに関するガバナンスの整備に向けて、様々なサービスをご提供しております。社内の体制整備にお悩みの場合には、弊社までどうぞお気軽にご相談下さい。

執筆者:株式会社リーガルライト 祐川 葉  


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監修者

弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
2015年の弁護士登録後、都内の弁護士事務所に勤務し、2021年に祐川法律事務所を開所。
企業法務・労務を中心に各種事案に幅広く対応。

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弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
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