【弁護士監修】妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて

マタニティハラスメントの扱い

マタニティハラスメントの扱い

 パワーハラスメント(以下「パワハラ」)、セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」)と並んで、話題に出ることが多いマタニティハラスメント(以下「マタハラ」)ですが、法令上は、パタニティ・ハラスメントや、ケア・ハラスメントとあわせて、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」(以下「妊娠等に関するハラスメント」)として防止措置の実施が義務付けられています。

 その内容はどのようなものなのでしょうか?

目次

企業として対応が必要な「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」とは

 男女雇用機会均等法11条の3、及び育児・介護休業法25条は、以下のように規定して、企業に妊娠等に関するハラスメントに対する防止措置の実施を義務付けています。

第11条の3(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
1 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない
2 第十一条第二項の規定は、労働者が前項の相談を行い、又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べた場合について準用する。

男女雇用機会均等法

第25条(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
1 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

育児・介護休業法

 これらの規定を踏まえ、厚生労働省都道府県労働局雇用環境・均等部(室)が作成したパンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!~ ~ セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対応をお願いします ~ ~」(以下「厚労省パンフレット」)では、事業主として対応が必要となる妊娠等に関するハラスメントを以下のように説明しています。

職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることです。
妊娠の状態や育児休業制度等の利用等と嫌がらせとなる行為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当します。
なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントには該当しません。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(10頁)

 この厚労省パンフレットにおける妊娠等に関するハラスメントに対する説明を分解すると

①職場において行われる、
②上司・同僚からの、
③妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動であって、
④業務上の必要性に基づかないもの、
⑤によって、
⑥妊娠・出産した女性労働者や、育児休業を届出・取得した男女労働者の就業環境が害されること

という6つの要素をいずれも満たす行為者の言動が、妊娠等に関するハラスメントに該当するものといえます。

 それでは、それぞれの要件について見ていきましょう。

「①職場において行われる」とは

 「職場」とは、事業者が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば、「職場」に含まれます。

 通勤中や、出張先等、実質上職務の延長とみるべきものは「職場」に該当し、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考慮して個別に具体的な判断をすることになります。

 なお、会社の懇親会等の宴席の場も、開催目的や参加者等によっては「職場」に該当する可能性があるので注意が必要です。

「②上司・同僚からの」について

 法律上の行為主体は特定されていませんが、厚労省パンフレットでは、「上司・同僚からの」というように、行為者に関する条件が追加されています。

 妊娠等に関するハラスメントは、パワハラと異なり、「優越的な関係」にある人物からの言動である必要はなく、完全に対等な立場にある同僚による言動であっても、これに該当することとなります。

 行為者が上司であるか、部下であるかによって、労働者に与える心理的影響の大きさが異なるため、「⑥妊娠・出産した女性労働者や、育児休業を届出・取得した男女労働者の就業環境が害されること」の条件において、いずれの行為者による言動であるかに応じ、1回の行為でも妊娠等に関するハラスメントに該当するものとされるのか、繰り返し又は継続的になされた場合に妊娠等に関するハラスメントに該当するものとされるのか差異が生じる場合があります。

「③妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動」について

 妊娠等に関するハラスメントには、「妊娠・出産したこと」という「状態への嫌がらせ型」と、「育児休業等の利用」という「制度等の利用への嫌がらせ型」の2類型があり、③の条件では、この点が示されています。

 労省パンフレットが指摘するそれぞれの類型の具体例は以下のとおりです。

状態への嫌がらせ型

・妊娠したこと。
・出産したこと。
・産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと。
・妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと。
※「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産したことに起因して妊産婦に生じる症状をいいます。

・坑内業務の就業制限若しくは期間有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(14頁)

「制度等の利用への嫌がらせ型」

男女雇用機会均等法が対象とする制度又は措置
・産前休業
・妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
・軽易な業務への転換
・変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休業労働の制限並びに深夜業の制限
・育児時間
・坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(11頁)

育児・介護休業法が対象とする制度又は措置
・育児休業(産後パパ育休を含む)
・介護休業
・子の看護休暇
・介護休暇
・所定外労働の制限
・時間外労働の制限
・深夜業の制限
・育児のための所定労働時間の短縮措置
・始業時刻変更等の措置
・介護のための所定労働時間の短縮等の措置

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(11頁)

「④業務上の必要性に基づかない」言動とは

 「③妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動」であったとしても、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づきなされた言動であれば妊娠等に関するハラスメントには該当しません。

 かかる業務上の必要性の要素について、厚労省パンフレットでは、ある程度調整が可能な休業等(例えば、定期的な妊婦健診の日時)について、その時期を調整することが可能か労働者の意向を確認する行為は妊娠等に関するハラスメントとして禁止されないとするほか、以下のような行為については、業務上の必要性に基づきなされたものとして、妊娠等に関するハラスメントには該当しないものとしています。

 妊娠等に関するハラスメントには該当しない業務上の必要性に基づく言動の具体例

「制度等の利用」に関する言動の例

(1)業務体制を見直すため、上司が育児休業をいつからいつまで取得するのか確認すること。
(2)業務状況を考えて、上司が「次の妊婦健診はこの日は避けてほしいが調整できるか」と確認すること。
(3)同僚が自分の休暇との調整をする目的で休業の期間を尋ね、変更を相談すること。
※(2)や(3)のように、制度等の利用を希望する労働者に対する変更の依頼や相談は、強要しない場合に限られます。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(15頁)

「状態」に関する言動の例

(1)上司が、長時間労働をしている妊婦に対して、「妊婦には長時間労働は負担が大きいだろうから、業務分担の見直しを行い、あなたの残業量を減らそうと思うがどうか」と配慮する。
(2)上司・同僚が「妊婦には負担が大きいだろうから、もう少し楽な業務に変わってはどうか」と配慮する。
(3)上司・同僚が「つわりで体調が悪そうだが、少し休んだ方が良いのではないか」と配慮する。
※(1)から(3)のような配慮については、妊婦本人にはこれまでどおり勤務を続けたいという意欲がある場合であっても、客観的にみて、妊婦の体調が悪い場合は業務上の必要性に基づく言動となります。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(15頁)

 これに対して、労働者の体調を考慮してすぐに対応しなければならない休業について、「業務が回らないから」といった理由で上司が休業を妨げる場合には妊娠等に関するハラスメントに該当し、ある程度調整が可能な休業等についても、労働者の意を汲まずに一方的に通告するときには、妊娠等に関するハラスメントに該当する可能性があります。

「⑤によって」について

 妊娠の状態や育児休業制度等の利用等と嫌がらせとなる行為の間に因果関係がある言動が、妊娠等に関するハラスメントに該当します。

「⑥妊娠・出産した女性労働者や、育児休業を届出・取得した男女労働者の就業環境が害されること」について

 「③妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動」における「状態への嫌がらせ型」において、就業環境が害される例として、厚労省パンフレットでは、(ⅰ)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの、及び(ⅱ)妊娠等したことにより嫌がらせ等をするものが挙げられています。

状態への嫌がらせ型

(ⅰ)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの

 女性労働者が妊娠等をしたことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆することを指し、行為者となり得るのは上司に限定されるものとしています。

 この「示唆」は、労働者への直接的な言動である場合に該当するものとされ、1回のみの言動でも該当します。

典型的な例

・上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(14頁)
(ⅱ)妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの

 女性労働者が妊娠等をしたことにより、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることを指し、上司のみならず同僚も行為者となり得ます

 この「嫌がらせ等」は、単に言動があるのみでは該当せず、労働者への直接的な言動である場合で、かつ、客観的にみて、一般的な女性労働者であれば、能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じるようなものが該当します。

 また、「繰り返し又は継続的」である点に関しては、「意に反することを伝えているにもかかわらず、このような言動が行われる場合は、さらに繰り返し又は継続的であることは要しない」とされています。

典型的な例

・上司・同僚が「妊婦はいつ休むか分からないから仕事は任せられない」と繰り返し又は継続的に言い、仕事をさせない状況となっており、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(15頁)

制度等への嫌がらせ型

 「制度等の利用への嫌がらせ型」において就業環境が害される例として、厚労省パンフレットでは、(ⅰ)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの、(ⅱ)制度等の利用の請求又は制度等の利用を阻害するもの、及び(ⅲ)制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするものが挙げられています。

(ⅰ)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの

 労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したことや制度等の利用の請求等をしたこと、制度等の利用をしたことにより、上司がその労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆することを指します。

典型的な例

・時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(11頁)
(ⅱ)制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの

 労働者からの制度利用の相談があった際に請求をしないように言うことや、制度利用の申請等があった場合に当該申請等を取下げるよう言うことを指します。

 単に言動があるのみでは該当せず、労働者への直接的な言動で、かつ、客観的にみて、一般的な労働者であれば、制度等の利用をあきらめざるを得ない状況になるような言動が該当します。

 上司及び同僚のいずれも行為者となり得ますが、上司については1回の言動であっても該当する一方で、同僚については繰り返し又は継続的なものであることを要します。

典型的な例

・男性従業員が育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得を諦めざるを得ない状況になっている。
・介護休業について請求する旨を周囲に伝えたところ、同僚から「自分なら請求しない、あなたもそうすべき」と言われた。「でも自分は請求したい」と再度伝えたが、再度同様の発言をされ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(12頁)

 なお、上司が個人的に請求を取下げるように言う場合が妊娠等に関するハラスメントに該当し、事業主として制度等の利用を認めない場合については、ハラスメントではなく、当該制度の利用を労働者に認めた各法に違反する違法行為と評価されます。

 また、事業主が労働者の事情やキャリアを考慮して、育児休業等からの早期の職場復帰を促すこと自体は制度等の利用が阻害されるものに該当しません。ただし、このような場合でも、早期の職場復帰を強要する場合には妊娠等に関するハラスメントに該当します。

(ⅲ)制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの

 労働者が制度等の利用をしたところ、上司・同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることをいいます。「嫌がらせ等」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、又は専ら雑務に従事させることを指します。

 単に言動があるのみでは該当せず、労働者への直接的な言動である場合で、かつ、客観的にみて、一般的な労働者であれば、能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じるようなものが該当します。上司及び同僚のいずれもが行為者となる得る上、いずれの場合についても、繰り返し又は継続的なものであることを要します。

典型的な例

・上司・同僚が「所定外労働の制限をしている人にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し又は継続的に言い、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf(13頁)

制度を利用していない労働者に対する言動

 近年では、育児休業等の制度利用が推奨され、各部署ごとに各制度に関する取得目標が設定されている場合もあります。

 このような場合に、取得目標を達成したいために、育児休業等の制度を利用しない労働者に対して、「部署に協力もせず、この役立たずが」などと罵倒して制度の利用を強要することは、パワハラに該当する可能性があり、注意が必要です。

まとめ

マタハラは、パタニティ・ハラスメントや、ケア・ハラスメントとあわせて、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」として防止措置の実施が義務付けられています。

①職場において行われる、②上司・同僚からの、③妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動であって、④業務上の必要性に基づかないもの、⑤によって、⑥妊娠・出産した女性労働者や、育児休業を届出・取得した男女労働者の就業環境が害されること、という6つの要素をいずれも満たす行為者の言動が、妊娠等に関するハラスメントに該当するものといえます。

育休等の制度の利用を労働者に認めた法律がある場合、事業者として労働者の当該制度の利用を妨げることは、ハラスメントではなく違法行為となります。

育休等の制度を利用しない労働者に対して制度の利用を強要することは、パワハラに該当する可能性があります。

執筆者:株式会社リーガルライト 祐川 葉  

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監修者

弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
2015年の弁護士登録後、都内の弁護士事務所に勤務し、2021年に祐川法律事務所を開所。
企業法務・労務を中心に各種事案に幅広く対応。

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弁護士 祐川 友磨

慶應義塾大学法学部法律学科卒、早稲田大学法科大学院修了。
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